ナッシュビルの一夜

ホテルはすぐに見つかった. 
そのギターショップから、2ブロックほど歩いた所だった.
部屋に上がり、荷物を置き、まだ暮れ始めた町に夕食を食べに行く事にした。
先ほどの“アーネストタブ”のギターショップに近い所に、
それらしい場所を何件か見つけて置いたので、
あのギターの看板を目当てに歩き始めた。
ホテルの裏側に入った所で、質屋の看板を見つけた。
まだ電気が点いていたので、入って見る事にした。
そこには、さすがにミュージクタウンと言うだけあって、
色んな雑貨、古い家具、洋服の間に、ギターが何本か下がっていた.
それも全てアコースティック。 
さすがカントリーミュージックの都、ナッシュビルだ.
KAY,SILVERTONE,GUILDに混じって、
GIBSON J−160E 、わりと状態も良い物が一本.
でも明日ギターショップを覗くので、ここは偵察にも及ばない.
質屋を出て、5分位歩くとあのギターの看板が見えて来た.
ホテルからもそう遠くはなかった。
狭い階段の入り口を背にしてミニスカートの女性が立ち、
客を呼び込んでる店もあるが、
それ自体が侘しく見えるほど、通りは換算としていた.
通りに面した大きなガラス張りの店があった.
中は暗くて、外からは、中で何が繰り広げられているか、想像するしかなかったが、
ちょっとだけ毀れて聞こえてくるレコードの音で、
そう怪しい物ではない事が分ったので、入って見た.
ドアを開けると、お客の目がいっせいに集まった.
そして、普通だったらその目があちこちに別れて行くのだが、
そうはいかなかった。 
今から30年くらい前のテネシー州の片田舎街、ナッシュビルだ。
嘗ての敵国、日本からの小さい来訪者を歓迎する訳はなく、
むしろからかうような目が注がれてた。
カウンターに着いてもその目が他に行ったような気配はしなかったが、
カウンター内のバーテンダーが、持って来たメニューを手にし、
食べ物と飲み物を注文するとその目も逸れたようだった.
テレビがフットボールの試合をながしてた。
出て来た大きなハンバーグを口にしながら、呑み物に手を出しかけると、
”HI!!”と、カワイらしい声が耳元に懸かった.
振り向くと、入り口左側の椅子に越し掛けてた
若い黒人の二人組の女性が僕の後ろに立って、愛想を振りまいていた。
”DO YOU WANNA DATE?”
一寸、面喰った僕に、可愛い笑顔を絶やさずに聴いて来た.
“SORRY, I DO NOT HAVE A TIME TO LOOSE”
なんて、ほんとに無愛想な返事しか用意出来なかった。
さっき、一度は、店のあちこちに散らばってた客の目線を、
もう一度しっかり集めてしまっていた。
店に流れてる音楽はカントリーだけ。
それも全て客がコインをジュークボックスに入れた物だった.