ミゾレ混じりの摩天楼

ネオンの輝きに後押しされながらビルの谷間を歩いていると
急にお腹がへってきた。
寒さから,頭の中で浮かんだのは,
ケネディ―国際空港からタクシーで移動の時に
チラッと見かけた“札幌ラーメン”の看板だった.
それは如何にも暖かそうな、赤い文字で、それも日本語で書かれていたから,
タクシーの中からでも目を弾いたのだ. 
そこで通ったと思う場所を探してあちこち歩きはじめた。
一時間くらい歩き回ったろうか、
やっとあの真赤な日本語で書かれた看板を見つけた。
ドアをあけ,暖簾を両手で潜ると,
あの独特の麺をあげる仕草と同時に,“いらっしゃい!!”と、大きな声が響いた.
“味噌ラーメンと御飯を一つ.“ 
待つ時間の永いこと,、、、そして、運ばれて来た御椀にむしゃぶりついた.
ラーメンを食べおわると代金を渡して外に出た.
雨がミゾレ混じりになっていた。 
これからタイムズスクェアー近くのホテルに帰るのだが,
歩く度に、道路に溜まった水が跳ね,ズボンまで濡れ始めた。
およその見当で近道をしたつもりだが,なかなか到着しない.
靴の中まで冷たい水がしみ始めたようだ.
先ほどラーメンで温まった体は、すぐに摩天楼の冷たさに弾き込まれた.
体がぶるぶる震える.両側のネオンは,手招きをし始めた.
そして絶えきれずに,映画の看板の手招きに応じることにした。
“大人一枚、,“ 何ドルかを払って暖房の利きそうな地下の映画館に入った.
看板を見間違えたのか、そこは“XXグりーンドア“と言う成人映画の入り口だった.
ブルースリー主演のカンフー映画と同じ所に看板が並んでいて、
よく確かめずに入ってしまった. 
切符売りに掛け合う元気もなかったので,地下に降り,席に座った.
スクリーンでは、何やら激しい行為が繰り広げられているが,
靴を乾かそうと、それどころではなかった。
暖かいスチーム管が足元を走ってるお蔭で、すぐに靴は乾き、
暖かさが体中を包むと何時しか眠気に襲われてしまった。
一時間くらい過したろうか、ざわついた音に目がさめ,
体も暖まったので、映画館を出る事にした。
時間は10時をとうに過ぎていた. 
映画館を出ると,3人のちびっこが,私に“カンフーを見たのか?“
“どうだった?“と聞いた. 時間が時間なので、びっくりしたが,
“すげ―かっこよかったよ,ブルースリー“と答えておいた。
ホテルはそう遠くはなかった。